中から一枚だけを選ぶ時、横に並べて見渡して、絶対これだというものを選択することになります。
フィルムであればコンタクトシートに写るコマを見てダーマトで印を付ける、コンピュータでなら、サムネイル一覧を見てフラグを立てる、そういった作業をします。
被写体となる人物がより良い表情であるかとか、雰囲気をより良く伝えているかなど、写真を選ぶには様々なパラメータがありますが、優柔不断な私の場合は構図から判断します。
今回は構図から写真を選ぶ例を公開します。
上半身裸の中年男性に警戒されながら撮影した写真を3枚用意しました。
左は、人物の位置関係を中央に向かっていく木で目立たせているように感じましたが、画面全体を見ると引き過ぎて弱くなっています。
中央は寄ったことで手前の人物がバランスを取りましたが、画面全体を見るとなんだか定まらない感じです。強くない、ような気がします。
右は、不安定ですが右方向に広がっていくような勢いを感じます。ただ、俯瞰してみると画面全体がぐしゃぐしゃです。
強いて左かな、あるいは全部パスかも。
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この線を引いた画像を用意して思ったことがあります。
20世紀を代表する写真家、アンリ・カルティエ=ブレッソンは、著書「THE MIND'S EYE」の中でこう述べています。
「黄金分割を探り当てる唯一のコンパスは写真家の眼だ。(~中略~)ファインダーに装着すれば、理想の透視図線が見えるなどというガラス板が写真屋で売られるような日が来ないことを願う。」
※「こころの眼―写真をめぐるエセー」P39/堀内花子訳/岩波書店刊
OpenCVなどの画像を扱うプログラムライブラリを用いて、主題を検出して点を表示したり、その点と点を線で結んだり、像が黄金比に触れる位置にあればピーキングしたり、あるいはそのような比率を構成したと判断してシャッターを切るようなスマートフォンアプリが登場すれば、彼が来ないことを願った日が来ることになります。
人類総アンリ・カルティエ=ブレッソン化の実現までそう遠くないかもしれません。
ただそれは、かつて必要とされた職人的技術がコモディティー化されたということであって、本城直季氏の大判アオリ写真がミラーレスカメラやスマホアプリの画像加工で簡単に出来てしまうのと変わりないことです。
そんな時代の流れともいうべき変化のなかで、趣味で写真をしている身としては、なんともゆったりとした時間の中で気ままにいられることは幸せのように感じられます。